Forest Baubiologie Studio,森林・環境建築研究所

 
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02 フォレスト・バウビオロギー
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森林医学が住宅の在り方を変える

森林医学とは

森林医学という分野は森林浴(forest bathing)から発展したものです。森林浴は世界有数の森林国である日本発祥のものですが、30年位前に生まれたばかりの新しい概念です。現在、国際森林医学会(INFOM)という国際学会が設立されており、日本やフィンランド、韓国を中心に森林の医学的作用について研究が進められています。INFOMは森林医学専門医の養成や認定も行っており、まずは予防医学として健康保険の対象になるような医学領域の確立を目指しています。

 そこで判明した森林環境が及ぼす人への注目すべき効果として、ストレスホルモンの減少血圧の正常化免疫細胞の増加と活性化等が報告されています。これらの効果発生のメカニズムの解明はまだされていませんが、少なくともそのような変化が起こることの生理学的な証拠が日本から発信され、世界中から注目されています。このような事実は、人工物に囲まれて生活している現代人にはピンとこないかもしれません。しかし、複雑な社会環境を背景にストレスコントロールの重要性が言われる昨今、私たちは、森林環境の中に身をおくだけで身体が元気になる、という現象をもっと真剣に捉えて研究すべきだと考えています。(しかも、その効果は森林から離れてもおよそ1ヶ月持続するという)。また、今後研究が進めば、将来的には森林環境を予防医学的に利用するだけではなく、今後はさらに、糖尿病やアルツハイマー、不眠症、鬱病などの予防にも利用できるのではないかと期待されています。それは、森林医学が保険対象の治療医学となる可能性を示すものです。

「森林セラピー」の医学的効果

森林浴」からはじまった研究は「森林療法」に発展し、やがて地域起こしと結びつける形で、国が主導する「森林セラピー」事業が誕生しました。日本各地の森林に「森林セラピー」をガイドする「森林セラピスト」が認定され、また、実験データに基づいて「癒やし効果」が医学的に認められる森を「森林セラピー基地」として整備する動きも広がっています。現在は全国に60もの「森林セラピー基地」があります。

さて、具体的に森林セラピーにはどんな医学的効果があるのでしょうか。「森林医学」では、「気持ちがよい」ことの正体を、心理的なものだけではない、人体に及ぼす具体的な影響について研究が重ねられてきました。ここでは「森林医学」の研究データからナチュラルキラー細胞の活性化効果とストレスホルモン(コルチゾール)の減少効果について紹介します。

ナチュラルキラー細胞(NK細胞)とは自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性リンパ球の1種で、特にがん細胞やウイルス感染細胞などを見つけ次第攻撃する働きをもちます。ナチュラルキラー細胞が活性化すると、病気になりにくい状態をつくるわけですが、森林環境に身を置くことで、NK細胞が活性化され細胞が増える、というデータが得られています。

*実験の計測環境
森林セラピストともに、森林環境に身を置きその環境を享受するといったスタイルで森林とコンタクトします。アクティブに過ごすのではなく、森の中を住居に見立てて静かに座ったり体を横たえたり森の音や匂いを感じたりします。

森林環境と八百万(やおよろず)の神

森の中には様々な動物、鳥、昆虫、ダニ、バクテリア、細菌、そして樹木、植物に至るまで無数の生命体が溢れ、その全てが人間と共通のリズムを自らの体内時計でカウントし、さらには共通の1/f特性をもっています。

それに加えて森林の中は美しい緑、光の散乱、葉のざわめき、揺れ動く木々、頬に触れる風のリズム等様々な自然の物理現象の宝庫でもあります。そして、これらの自然物理現象もやはり概日リズム(サーカディアン・リズム)をベースにして1/f特性をもってゆらいでいます。つまり両者は本来深い関係性で結ばれたいわば同調関係にあったのです。日本人は太古より、森の中に神秘や霊的なものを感じ取り八百万(やおよろず)の神の存在を神道に結び付けました。八百万(やおよろず)の神の存在を人々に知覚させたのは、無数の生物リズムと複雑な自然の物理現象のリズムが自分たちの生体リズムと一致することによる共鳴同調現象の知覚反応だったのではないかとも思えるのです。

森林医学と建築の接点

私たちが森林を理解する為には生物学的観点だけでなく物理現象の知識が必要です。それは共鳴や共振、あるいは同期、同調という身の回りに普通に起こる物理現象を指しています。簡単に言うと同じ性質の波動はつながって共有されるという性質です。生命リズムと自然現象のリズムの共通性はシンクロシティ(同期)あるいは共鳴共振作用を生み出します。この時エネルギーの交換あるいは補充が行われますが、このようなエネルギーの交換は生体に全くストレスを与えずに行われると考えられています。

 しかし、このような物理の波動現象の生物への影響の解明はとても難しく、人体への電磁波の影響すらまだ明らかにされていません。物理学と医学がもっと環境を扱う建築学と協働することが必要です。そうはいっても森林医学が明らかにしてくれているエビデンスデータは、環境の作り出す自然のリズムとその環境内の生命体のもっているリズムの同調がよい影響を生み出す可能性を示してくれたという点で画期的な成果です。そして、このことは経済やエネルギー効率に向いていたパッシブな建築の意味を変える新しい視座をもっているといっても過言ではありません。

 
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