Forest Baubiologie Studio,森林・環境建築研究所

 
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03 森林共生住宅への手引き
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自然の摂理を受け取る、本当の快適性

現代の住宅に対する評価は視覚情報に偏重するところがあって、本来の役割である「住む人の命を守る」ことにきちんと向き合ってきただろうか、と思うことがあります。たとえば、近年人気の高い高断熱高気密住宅もその一つです。北海道や山間部の寒冷地には有効ですが、やみくもに外部の自然環境の影響を遮断することが、本当の快適性につながるわけではありません。日本は比較的温暖で湿度が高く、植物がよく育つ緑の多い国です。私たちの多くは休暇をとって山や森にでかけ、自然環境の影響下に身を置くことで、癒されたり、充足感を得たりしています。住宅の外には庭や公園や街路樹があり、心地よい風や匂い、そして様々な生き物の気配を運んでくれます。私たちの生命はこうした自然と複雑につながっているのです。

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私たちは、日本の「住宅」が外部環境から遮断された「カプセル」のようなものを目指す必要はないと考えます。重要なのは、外部環境の影響をやわらかく透して受け入れる「フィルター」のような機能です。ドイツ発祥の環境建築思想「バウビオロギー」では、住宅を「第三の皮膚」であると説明しています。私たちが五感で心地よいと感じる外部環境の影響、大きな自然環境のゆらぎをできるだけ室内に取り込むこと、同時に都市が発する工業的なノイズや夜も明るい照明、健康を害する熱気や冷気などは適度に遮って、快適性を維持すること。そのための、繊細で有機的に機能する皮膚のような「フィルター」を構成する技術こそが、現代の住宅にとって必要な技術なのです。

熱のフィルター:外部環境から取り込む熱と、遮断する熱を使い分ける

人と建築躯体と、熱容量を持った個体同士で直接伝え合うことを、輻射熱環境といいます。空気を媒体にするエアコンのように室内に温度差をつくらないので、体に優しく、また圧倒的にエネルギー効率がいい環境です。

建築躯体に熱容量を持たせるためには、地盤熱を利用します。屋根からの過酷な熱や冷気を高度に遮断した上で、大地と直に接する土間床を設置する(=アースハウジング工法)ことで、年間を通して安定した地盤熱を躯体に伝え、快適な輻射熱環境を作り出すことができます。外部環境から取り込む熱と、遮断する熱を使い分けて心地よい輻射熱環境をつくること。住宅建築ではもっと多用されてもいい「フィルター」技術の一つといえるでしょう。

アースハウジングについてはこちらもご覧ください。

湿度のフィルター:外部環境から透す湿度と、余剰な湿度の解決策

日本の住宅にとって湿度は長い間の課題です。湿気は冷やされると結露し、カビの発生や腐れ、細菌繁殖と室内衛生環境を著しく阻害します。とかく悪者にされがちな湿度ですが、だからといって、高気密住宅もまた湿度の高い日本の気候には合いません。湿度の正体は水蒸気ですから、空気の流動性が高い住宅では水蒸気が外からたやすく流入してしまうからです。そして頼みの綱の除湿機は閉じられた空間しか除湿することがきないのです。

高気密住宅が日本の環境に合わないのには、もう一つ理由があります。日本人の肌は乾燥に弱いので、特にアトピー性皮膚炎の子供などには非常に厳しい環境となってしまう可能性があります。また、住宅の気密性が高いと、夏、室内に侵入した湿気は外部に逃がしにくく、逆に冬は過乾燥を招きやすいので、制御が難しいという一面もあります。

森林共生住宅では、自然環境とのつながりを絶たずに、調湿性能のある自然素材(木や漆喰など)を起用してある程度湿度を透します(透湿)。

湿気のたまりやすい浴室などの水回りは、日中の太陽熱を入れて蒸発させることができます。水回りの位置が何らかの要因によって制約される場合には、躯体の蓄熱装置を使って少しだけ熱を加えることも有効な方法です。私たちは、熱と湿度をフィルタリングし、快適なバランスを見つけて取り込むことで、住む人の健康に貢献する室内環境を作っています。

自然のリズムのフィルター:開口部から1/fで調和する自然のリズムを取り込む

人間の生命が1/fのリズムで自然と同期していることは、フォレストバウビオロギーの頁でも解説してきました。自然はすべて、常に1/fで揺らいでいるので、住宅は、私たちの命を守る「膜」として、過酷な熱や冷気を遮断しながらも、自然界の持つ1/fのゆらぎを私たちに伝えるものでなくてはなりません。森林共生住宅は「自然に対して開いている」ために、できるだけ開口部を大きくとります。木々を揺らす風の動きや鳥の声、太陽と月の巡り、季節の移り変わりが住む人に届かなくてはならないからです。

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